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東京高等裁判所 昭和24年(新を)1474号 判決 1950年7月06日

控訴人 被告人 本松高男

弁護人 木原一史

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

当審に於ける訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人木原一史の控訴趣意は同人作成名義の控訴趣意書と題する末尾添附の書面の通りである。これに対し当裁判所は次の通り判断する。

第一点論旨は起訴状は本件窃盗犯について住居侵入の事実を記載しながらこれが罰条を示さないから違法である。従つて原審は本件公訴を棄却すべきであつたのにこれをしなかつたのは違法であるから破棄を免れないというにある。よつて記録を調査するに起訴状には所論のような記載はあるが起訴状の所論住居侵入の点は本件起訴に係る窃盗の情況を記述したに止まりその他に住居侵入の罪についても公訴を提起したものとは認められない。窃盗犯のような犯情を異にすること多き犯罪についてはその犯情を相当明らかならしめる事実を起訴状に記載しても違法であるとは認められない。本件起訴状が本件窃盗と住居侵入を各別の訴因とせず罰条もただ窃盗に関する法条を示し住居侵入についての法条を記載しない点などを考えると本件公訴は只単に窃盗のみの審判を求めるのみであつて、住居侵入の罪についてはこれを求めるのでなく該事実は本件窃盗の犯情として記載したこと明らかで仮令「硝子戸の施錠を外し居宅内に侵入し」とあつてもその理を異にするものでない。故に本件起訴状には所論のような違法はない。従つてこれを適法と認め窃盗の事実について公訴棄却の挙に出でないで本件窃盗の罪について審理判決した原判決には所論のような違法はない 論旨理由ないものである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一点原審は無効な起訴状に基いて従つて適法な公訴の提起なく訴訟を進行せしめたものであつて原判決は破棄を免かれざるものと思料する。すなわち被告人に対する昭和二十四年四月二十五日付起訴状記載の公訴事実によれば「被告人は……窃盗の目的で家人の不在なるを奇貨とし昭和二十四年四月十日頃の午後十時頃、足利郡三重村大字五十部一六一五番地会社員穴原富次当三十年方に至り居宅北側勝手口の硝子戸の施錠を外し居宅内に侵入し居宅二階六畳間及八畳間の座敷にあつた云云」とあり、被告人の住居侵入および窃盗の事実を謳いながら、罪名には単に「窃盗罪刑法第二百三十五条」とあるのみである。記録(第一〇四丁)。刑事訴訟法第二百六十五条によれば、起訴状には一、被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項 二、公訴事実三、罪名を記載すべきものとされ、罪名は適用すべき罰条を示してこれを記載すべきものであつて、この「適用すべき罰条」とは起訴状に記載された罪となるべき事実について適用すべき罰条と解するを至当とする。すなわち公訴提起の任にある検察官が捜査の結果、被告人が住居侵入および窃盗の犯罪を犯したという証明十分であるが、そのうち窃盗罪について裁判所の審理を仰げば十分であると思料して住居侵入の点は不問に附する場合においては起訴状には単に窃盗罪の構成要件のみを記載し、住居侵入の点はボヤかしておく(「何某方において」等と記載されるを通例とする)ということはありうべきも苟も起訴状に明らかに「硝子戸の施錠を外し居宅内に侵入し」と被告人の穴原方に不法侵入せる事実を打つた以上は罪名としても刑法第百三十条を記載する必要がある。本件起訴状はこの点において法律の規定に違反せるものであつて無効なるものというべく、したがつて原審は窃盗の事実については公訴提起の手続がその規定に違反したため無効なるものとして判決で公訴を棄却すべきであつた。(刑事訴訟法第三百三十八条第四号)。この点において原判決は破棄を免かれざるものと思料する。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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